がん になった時にそなえて

「患者の生き方」より
 わが国ではがんと診断された時に、最初にその結果を知らされるのは家族です。その上で本人に知らせるかどうかは、家族に決めてもらうのが一般的です。
HIVの感染(あるいはAIDS)では、結果を先ず本人に知らせ、もし本人が拒否するのであれば配偶者や同居の家族に対しても知らせないのが原則です。HIVは家族に感染させてしまう可能性もあるので、私は家族に知らせることが必要だと思うのですが、医療の現場ではそのような取り決めになっています。
がんとAIDSでその対処法が反対なのは、がんの告知は昔からの慣習に従っているのであり、AIDSは比較的新しい病気のため、告知が問題になった時に、自己決定を重んじるインフォームドコンセントの考え方が、すでに普及していたためです。
 自己決定を重んじるのであれば、がんの告知でも、先ず本人に結果を知らせ、もし本人が拒否をするのなら家族には知らせないのが本当です。おそらく日本でも将来、その方向に移行すると思います。

 1993年に私は都立広尾病院に通う慢性肝臓病の患者さんを対象に、病名の告知についてアンケート調査をしました。10年以上前には、自分ががんになった時、そのことを知らせてほしくないという人が10パーセント余り(49人中5人)いました。当時、患者さんが悪い結果を知らされたくないのであれば、その希望も尊重されるべきだろうと考えていました。
しかし、それから10年余りが過ぎて、患者さんの意識に大きな変化が生じています。最近では、自分ががんになったなら、それを隠すことなく正確に知らせて欲しいという人がほとんどです。知らせて欲しくないという人を見つけることが難しくなっています。もっとも、健康な時にはそうであっても、いざがんになってしまえば気持ちが変わる可能性もあり、がんの告知は常に慎重に行なう必要はあります。

 ところで、医療の現場では、今でも家族が告知に反対するために、本人には知らせないという例が少なからずあります。私たちも、そのことで悩まされます。
「あの人は気が弱い人だから、がんだなんて知らされるとすぐに落ち込んでしまう。」
と家族は本人に知らせないことを、強く希望することが多いのです。その理由の一つは、家族自身が病名を知らせた後に、どのように患者さんと対話してよいのかがわからず、不安を感じるためではないかと思います。家族や親戚にがんを知らせた経験を持つ人も、最近増えており、そのような人は、がんの告知に反対することも少ないのです。
 本人への告知を反対する家族に、私は、森津純子さんの「がんになった患者家族が読む本」を薦めています。そして、患者さんは、がんであることを知らされると、一時的には落ち込むけれど、周りに支えてくれる人がいれば、必ずたくましく生きようとする力が戻ってくることをお話ししています。
 それでも、家族があくまで反対というのなら、その意見を無視してまで本人に知らせることはしないのが現状です。

しかし、もし患者さんが真剣な顔で、「がんなのかどうか本当のことを知りたい。」と問い詰めてきたら、私は家族の反対に目をつぶってでも本人に話すべきであろうと考えています。
そのような事態を避けるためにも、自分ががんになった時に知らせてほしいのかどうか、あるいは家族の判断に任せるのか、どの人に任せたいのかなどを、普段から家族の間で話し合っておくことをお奨めするのです。
患者の生き方―よりよい医療と人生の「患者学」のすすめ

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック

  • 「患者の生き方」を読んで

    Excerpt:  超ベテランの先生のブログを拝見し、次々と提言されたり紹介されている         患者の生き方 を読んでみました。  10年あまり看護師として働いたことから常々思ってきたことなので、ほ.. Weblog: おもしろ看護学と回顧録@WebryBlog racked: 2005-03-02 10:47