禁酒反対!禁煙反対!

 禁酒反対、禁煙反対などというと、医者ともあろうものがと思われるかもしれませんが、私は、禁酒も、禁煙も、人から禁じられる強制されることであるために好きではありません。それは人間の自由と人類の文化を否定するものであろうと思うからです。

1985年ニューヨークへ留学していた頃、私はアメリカにおける禁煙運動の広がりかたに違和感を覚えました。アメリカには、アルカポネの時代の有名な悪法、禁酒法がありましたが、それに通じるものを感じたためです。

私は留学する前には禁煙していたのですが、天邪鬼のためにそのような雰囲気に反抗し、むしろアメリカで喫煙を再開することにしました。(コウイウ、もっともらしい言いわけや理由をつくっては、飲酒や喫煙を続けている人をよく見かけます。要注意!)。

 その頃、司馬遼太郎の“アメリカ素描”を興味深く読みました。
 米国には文明はあっても文化がないという趣旨で書かれた本です。地球上のほとんどの国の人々は、文化で自家中毒するほどに重い気圧の中で生きている。その状況のなかで文化に縛られない国があることに救いを感じると司馬は述べています。そこでは、「たれもが参加できる普遍的なもの、合理的なもの・機能的なもの」を文明として、「地域性があり、特定の集団や民族が過去の歴史をひきずりつつ負の面をも含んだ不合理なもの」を文化として、定義しています。

アメリカは、欧州の古い慣習や文化の束縛からまぬがれたい人が、自由と独立を求めて移民し出来上がった国です。したがって、合理性や効率が最も大事な価値基準となり、飲酒や喫煙が健康に悪いとなれば、それが簡単に排斥されるのでしょう。そして、ジョッギングが健康に良いとなると大流行になるのです。

 しかし、人間の生活には、一面では不合理あるいは負と考えられることも、他の面から見れば正の部分をもふくんだ習慣も多いものです。何百年も続いてきた習慣は、度さえこさなければ、それ程大きな危険を伴うものではありません。そのように、文化がコントロールしてきたのです。

 私が禁煙反対、禁酒反対とあえていうのは、喫煙や飲酒の習慣を個人の自由の問題として残しておきたいからです。

もちろん、タバコが嫌いな人の近くで喫煙し、煙をふきかけたり、酒癖が悪くて周りの人に迷惑をかけたりするなどの行為は論外です。それらは、むしろエチケットの問題です。また、患者さんが消化性潰瘍や心疾患をもっていたり、慢性閉塞性肺疾患などがあれば、私は、その患者さんに喫煙しないように極力説得します。そして、もし、自分がそのような病気をもてば、きっぱりと断煙します。自分で、のどや気管の調子が悪いと思った時には、何ヶ月間休煙していて平気です。今も6ヶ月程すっていません。

飲酒でも適量を守れないアルコール依存症者や、アルコール性肝硬変などアルコール性臓器障害をともなっている人には、節酒指導は難しく、断酒しかないと考えています。禁酒に比べると、断酒のほうが、本人の止めようという意志が入っているよい言葉だと思います。禁煙や禁酒が嫌だというのは、それが自分の意志によるのではなくて、人から強制されるものであるからです。

私はタバコをそれ程多く吸うわけでも、酒をたくさん飲めるほうでもありません。それでも、禁酒と禁煙を他人から押し付けられることは、断固拒否したいと思います。一生の間、食事のともには適度に酒を飲み、咽喉の調子のいい時にはタバコをプカプカとふかす、そのような生活を続けたいと思います。

 学問のすすめ 16編 手近く独立を守る事 には次のように書かれています。

「有形の独立は右のごとく目にも見えて弁じ易けれども、無形の精神の独立に至ってはその意味深くその関係広くして、独立の義に縁なきように思わるる事にもこの趣意を存して、これを誤るものはなはだ多し。細事ながら左にその一箇条を撮ってこれを述べん。

 一杯、人、酒を呑み、三杯、酒、人を呑むという諺あり。今この諺を解けば、酒を好むの慾をもって人の本心を制し、本心をして独立を得せしめずという義なり。今日世の人々の行状を見るに、本心を制するものは酒のみならず、千状万態の事物ありて本心の独立を妨ぐることはなはだ多し。

この着物に不似合なりとて、かの羽織を作り、この衣裳に不相当なりとて、かの煙草入を買い、衣服既に備われば屋宅の狭きも不自由となり、屋宅の普請初めて落成すれば宴席を開かざるもまた不都合なり、鰻飯は西洋料理の媒妁となり、西洋料理は金の時計の手引となり、此より彼に移り、一より十に進み、一進また一進、段々限りあることなし。

この趣きを見れば一家の内には主人なきがごとく、一身の内には精神なきがごとく、物よく人をして物を求めしめ、主人は品物の支配を受けてこれに奴隷使せらるるものと言うべし。」




「肝臓病教室のすすめ」 より。肝臓病教室のすすめ―新しい医師・患者関係をめざして

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この記事へのコメント

邦之
2005年05月15日 07:42
「かくも多くの品物の山に囲まれて、ひとはついに己を失い、癌という病を得るならむか」
なんぞと書いてあったりして・・・?
(癌=病+品+山)
2005年05月15日 14:33
品物(食べ物を含めて)が手に入りやすいこと自体は歓迎すべきことと思います。

その利用をどう自分でコントロールするかがこれから必要なのでしょうね。
omori-sh
2005年05月15日 15:45
しんぞう先生がタバコを召されるとはびっくりでしたが、「禁」と「断」の違い、もっともだと思いました。いつものことながら、しんぞう先生のお言葉には「ほんまやなあ、そうやなあ」と共感です。
「禁」を命じることなく「断」に導くことこそ、「心を動かす」ことなんでしょうね。
ぼくが30歳の誕生日にしたのは、禁煙ではなく断煙だと今後コメントすることにします。
まだまだ「断」しなきゃいけないこと山ほどあるんですけどね~
2005年05月15日 16:13
「禁酒反対!禁煙反対!」は成熟した大人たちの国であることを、強く願うスローガンでもありますね。成熟した大人の覚悟はかくあらん・・。子供たちよ!福澤翁の文言理解できなくば、けっして「禁酒反対!禁煙反対!」と叫ぶべからず。
2005年05月15日 17:30
omorishさん。タバコは平均すると一日2-3本程度です。禁煙していないというために、という口実で。

B&Sさん。 成熟した社会を目指したいですね。アメリカはやはり若い国。ヨーロッパはそれに比べて成熟していると思います。福澤諭吉先生の学問のすすめは口語訳が出ております。叫びたい人は、まずそれをどうぞ。
2005年05月15日 17:31
omorishさん。タバコは平均すると一日2-3本程度です。禁煙していないというために、という口実で。

B&Sさん。 成熟した社会を目指したいですね。アメリカはやはり若い国。ヨーロッパはそれに比べて成熟していると思います。福澤諭吉先生の学問のすすめは口語訳が出ております。叫びたい人は、まずそれをどうぞ。
TAE
2005年05月15日 22:53
初めまして。エキブロメディカルから来ましたTAEといいます。以前omori-shさんのブログで、「患者の生き方」をお勧めしていたので、興味を持ちこちらに伺いました。
禁酒・禁煙について共感しました。なんでも禁止されると余計にしたくなるものだと思います。でも医療者としてここまで言えるのはすごいですね(笑)私は以前喫煙者だった看護師なのですが、前向きに「お酒やタバコをやめたら体も楽だし、酔うことや煙を気にして過ごさなくていいし、お金もかからないからとても楽しいよ。」とまずは禁止せずに、意欲を促す生活指導をしたいと思います。
2005年05月15日 23:33
私も、アルコール依存症でも患者さんのほうがまだ、断酒する気になっていないで、節酒をするというときには、まずは節酒でやってみて、それでうまくいかないときには断酒しかないねと約束するようにしています。

この辺のことは解決志向アプローチとして次の本によくかかれています。インスー・キム・バーグ、スコット・D・ミラー 飲酒問題とその解決 ソリューションフォーカスト・アプローチ 金剛出版 1992年
2005年05月16日 04:39
そう、エチケットの問題なんですよね・・・。
なんですが、でもやっぱり好きになれないです~。以前接客業で仕事柄、タバコを吸わないでくれとはいえず。さらに赤ちゃんもしょっちゅう来るような場所だったのに、経営者も『客に禁煙と言うとは何事だ!』みたいなオバカちゃんだったので、ロビーを禁煙にするわけにもいかず・・・でも勝手に灰皿撤去して、反抗していたものの、ガマンしてました。
やめる直前は、息をするたびに肺の位置がわかるほど、痛みというか息苦しかったです。
どんなに子どもの健康に気遣っても、ヨソの知らないスモーカーに癌にさせられるなんて、吸わない親としては考えたくもないんですけどね・・・。
って医師からすると、レストラン程度での受動喫煙で癌になるなんて、非科学的な意見ですよね?
ちょっと趣旨から外れたコメントですみません。
2005年05月16日 18:25
wanさん。このような方の前では喫煙をすべきではありませんね。 

ところで、受動喫煙てひょっとして誤解されているかもしれませんので、一言。喫煙者は能動喫煙と受動喫煙の両方をしています。受動喫煙ももっとも影響の受けやすい場所にいます。
このようなことから、当然のことながら、喫煙者がもっとも悪い影響を受けるのです。世の中には、喫煙者より周りの人のほうが悪い影響を受けると誤解している人もいますが。
TAE
2005年05月17日 16:54
アプローチ手法一つにしても、考えるべきことはたくさんありますね。文献のご紹介ありがとうございました。参考にさせていただきます。
にしまる
2005年05月17日 18:17
こんにちわ、
最近あるサイトに遊びに行ってから、やっぱりタバコやめなきゃ…と思い、1日3本までにしています。酒のほうはダイエットのため止めてます…実際は健康上の都合で、タバコは絶対にダメ、お酒は具合がよければ飲んでいい、なのですが…努力しないとーー。本当はタバコ止めたいです…
2005年05月18日 07:30
TAEさん。 これからは行動や生活習慣をいかに変えるかとのアプローチを身に着けることが重要な時代を迎えます。大変ですが、面白いですよ。
2005年05月18日 07:33
にしまるさん。永遠の女子高生偽悪医師としては、酒やタバコは必需品ではありませんか。
体を大切に。最近具合悪そうで心配していました。
若苗
2005年05月18日 19:30
若苗もトシに体調不良が加わって酒量が減りまして、昔から理想だった「たしなむ」が実現しつつあります。なんであんなにやたらと飲んだのか、あの精神状態はいまだに明らかにはできませんが、破滅しないでよかった~。今、C型肝炎ですが飲んでます。加藤先生のよくおっしゃる食事や生活から身体状況を良くしていき、少しでも長くお酒を楽しみたい・・・は、本末転倒でしょうか。
2005年05月19日 01:02
若苗さん。健康になれるなら死んでもよいという人もいるくらいですから。
megu
2005年05月25日 13:15
しんぞう先生、私の父はお酒飲みです。
アルコール依存症っていうのは、病気なのですか?アル中じゃないってよく言っては、母と喧嘩になっているようです。いつも言い合いがひどくて私も弟もびくびくしてしまいましたが。
これって、やっぱり病気なのでしょうか?
先生のブログの記事を読んでいて思いました。
KEIKO
2006年05月02日 00:27
賛成で~す。私は営業の仕事をしているんですけど、最近喫茶店も禁煙店が多くて・・・煙草とコーヒーはセットだろう??と思い、そういう店には断固入りません。嗜好品でしょうに・・
宛て名
2006年11月12日 11:13
フランスが全面禁煙になるという話を聞いて反対派を探してやってきた者です。喫煙者の全員がこういった大変大人な考えのもとに行動できる人なら良いのですが、残念な事に禁煙を推進してる人へ好材料を与える人は決して居なく成らないんですよね…。何か良い解決があるといいですけど。例えば、たばこ税はそのテイストを維持した上での無害化の研究用途に使い、その結果構造が複雑になる分値段が高くなる。なんて都合のいい話は、是非論ばかりで、聞こえてきそうにありません。
通りすがり
2008年03月02日 18:23
喫煙すると気管支炎が治る、肺が強くなる、精力が増す、長寿になるというアメリカの医者の話もあります。
禁煙をどうして国家レベルで推奨するのでしょうか。
加藤眞三
2008年03月03日 18:33
通りすがりさんの医者の話というのは私は未確認です。

国家レベルで喫煙者を少なくするということは、私は理解できます。そのほうが国民全体の健康には良いと思いますから。

しかし、それを法律で規制したり禁じることに私は抵抗感をもっているだけです。

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